怪獣たちの足元で、明日を考える。
第27話 Kindness

群れの秩序 ―― 3匹が揃うとき

Gō Shiomi Gō Shiomi
群れの秩序 ―― 3匹が揃うとき

あの最強の敵との戦いから、3日が経っていた。

傷がまだ塞がりきっていない。ガリョウの左腕はようやく動くようになったが、握力は戻っていない。クロワは歩くたびにわずかに顔をしかめている。僕は足の裏に包帯を巻いていた。

だが、敵は待ってくれない。街の復旧が始まったばかりの朝、地面が揺れた。小型の群れだった。10匹ほどの、犬のような敵が街の外周に現れた。一匹ずつは大したことない。でも数がいる。そして住民がいる。

住民たちが、不安そうにこちらを見ている。またか、という顔。


あの頃との違い

初陣の日、ガリョウが真っ先に突っ込み、クロワも独自に迎撃ルートを計算して動き、僕は2匹の間をオロオロ走り回った。全員が正しいことをしているのに、被害は3倍になった。

ガリョウが敵を投げ飛ばした先にクロワがいて、クロワが誘導した避難経路を僕が塞いだ。善意と善意がぶつかり合って、街が壊れた。守ったはずの街が、足元で崩れていた。

あれから何回戦ったか。ノートには全部書いてある。

今日は、あの日と違う。

🐉 クロワ

小型10体、接近速度から着弾まで4分。配置は私が出す。Gは北側、正面からの突破を防げ。ノビは東の住宅地。避難誘導と中継だ。

🦖 ガリョウ

了解だ。

ガリョウが「了解だ」と言った。以前なら「指図するな」と返していた。砂漠を越え、街を守り、一度はバラバラになり、あの最強の敵の前で「俺一人じゃ足りない」と言った。その全部があって、今日の「了解だ」がある。

🦕 ノビ

東側、行きます。住民の数と逃げ道は昨日ノートに書きました。大丈夫です。

3匹が、一言も無駄にせず散った。打ち合わせは30秒もかからなかった。

走り出す瞬間、不安そうに見ていた住民のおばさんと目が合った。「大丈夫です」と叫んだ。自分でも驚くほど、はっきりした声だった。

3匹がそれぞれの持ち場に散っていく
言葉は短く、動きは速く。

被害ゼロの朝

クロワの合図で、走り出した。東の住宅街を駆け抜けながら、窓を叩き、戸口に声をかけた。

「南の広場に逃げてください!」

昨日のうちに記録しておいた避難ルートの通りに住民を誘導する。一人暮らしのお年寄りが3名、小さな子どものいる家庭が2つ。誰がどこに住んでいるか、ノートが覚えている。

角を曲がるたびに、ガリョウの咆哮が北から聞こえた。以前は恐怖しか感じなかった音が、今は頼もしい。

🐉 クロワ

ノビ、西3番通りに1体が逸れた。住民がまだ2名残っている。Gを回す。40秒で着く。それまで持たせろ。

🦕 ノビ

わかりました。行きます!

足の裏の傷が痛んだが、止まらなかった。西3番通りに駆け込むと、老夫婦が立ち尽くしていた。敵が路地の向こうからこちらを覗いている。低い唸り声。爪が地面を引っ掻く音。

僕は老夫婦の前に立った。足が震えた。ここは僕の持ち場だ。震えてもいい。持ち場を離れなければいい。

40秒。クロワの予測通りにガリョウが駆けつけた。拳が一撃で敵を弾き飛ばし、僕の肩を一瞬だけ叩いて、北に走り戻った。

老夫婦を南の広場まで送り届けたとき、すべてが終わっていた。

終わってみれば、あっけないほど短い戦いだった。

被害ゼロ。建物の損壊ゼロ。けが人ゼロ。

静寂が戻ったとき、朝日がまだ街の上にあった。まだ朝だった。あの初陣では、日が暮れるまで戦っていたのに。

住民を守り終え、静かに立つ3匹
3つの歯車が、ついに噛み合った。

誰も派手なことはしていない。でも被害はゼロだった。

初陣の日と同じ状況だった。敵がいて、住民がいて、3匹がいた。違ったのは、動き方だけだ。

あの日は瓦礫の上に立っていた。今日は、無傷の街の上に立っている。


歯車が噛み合う音

戦いの後、住民の一人が僕のところに来て言った。

「あなたの声が聞こえたから、落ち着いて逃げられた」

小さな声だった。でも僕の足の裏から頭のてっぺんまで、じんわりと熱いものが広がった。ガリョウのように敵を殴れない。クロワのように全体を設計できない。でも、僕の声が誰かの足を動かした。

🐉 クロワ

今回の被害がゼロだったのは、Gの力でも私の設計でもない。3つの歯車が噛み合ったからだ。どれか1つでも欠ければ、また瓦礫の上に立っていた。

🦖 ガリョウ

ノビ。お前の足、速くなったな。前より迷いがない。

🦕 ノビ

……ありがとうございます。でも僕が速くなったんじゃなくて、走る場所がわかっただけだと思います。自分の居場所がわかると、足って勝手に動くんですね。

その夜、僕はノートを開いた。初陣のページと、今日のページを見比べた。あの日の字は震えていて、「全部めちゃくちゃだった」と書いてある。今日のページには、住民の数、避難にかかった時間、ガリョウの到着タイミング、全部が整然と並んでいる。

字が、変わっていた。震えが消えていた。

夜、ノートを開いて初陣の日と今日を見比べるノビ
あの日の字と、今日の字。

その夜、ノビはノートにこう書いた──

初陣のページの字は震えていた。今日のページの字は、震えていなかった。同じペンなのに。変わったのは、手じゃなくて、走る方向だった。

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